2008年 10月 2日
この大会で初めて見る、ガチガチに緊張した錦織だった。相手サーブの第1ゲームではまともにリターンが返らず、第2ゲームではサーブを打った後に手を滑らせて、ラケットを落としてしまった。22分で終わった第1セットは7ゲーム戦って、取れたのはわずか12ポイント。緊張の理由を錦織は「(相手を)尊敬し過ぎていた」と話した。2002年にジュニアで世界ナンバーワンになったガスケに、中学時代から「すごい選手がいる」と憧れの視線を送っていた。だから、対戦が決まってからも「勝てるという自信がわいてこなかった」という。
コートの向こう側に立っていたのは、昨年のウィンブルドン4強、この大会の準優勝者で、最高位は世界ランク7位の22歳だった。「僕が錦織に優っているとすれば経験」と話していたガスケがコート上で見せた多彩な技に、18歳の錦織は翻弄された。力強いサーブ、緩急をつけたストローク、意表を突いたネットダッシュとドロップショット。最終ゲームではサービスエースを3連続で決められた。「(ガスケは)攻めが速いし、いろんなことをやってくる。相手に圧倒されて自分の思うようなプレーができなかった」。錦織は完敗を素直に認めた。
ただ、日本での試合ということで緊張してしまい、1回戦で敗れた昨年と違って、3回戦まで進んだ今回は手ごたえを感じた大会でもあった。「去年よりサーブ、ストロークでミスが少なくなって、成長したなと思う」。連日、コロシアムのスタンドは、錦織を一目見ようというファンで埋まった。「僕でいいのかな、というのはあった」というが、大声援に後押しされてのプレーを「本当に良かった」と振り返った。
試合後のコート上のインタビューでは、「来年は優勝に向けて頑張りたい」と答えた錦織だが、記者会見では「あれは勢いで言ってしまった」と”修正”した。日本で年に1度だけ、ツアー大会として開催されるこの大会のレベルの高さ、優勝することの難しさが分かっているからだ。「僕にとってはグランドスラムに値するほどの優勝したい大会」。今回はガスケの前に手も足も出なかった錦織だが、来年は一段と成長した姿を日本のファンに見せてくれるはずだ。
谷 祐一