2008年 10月 1日
朝方まで残った雨のため、ナショナルトレーニングセンターに移動して行われた鈴木貴男の2回戦は、両選手が一歩も引かない緊迫した試合になった。しかも、ちょっとした仕草やアイコンタクトに、お互いを尊重する気持ちがにじみ出る。ともにクラウディオ・ピストレジコーチの指導を受ける鈴木とボレリ。ランキングは離れているが、ツアーの戦場で戦う仲間同士だ。だからこそ、鈴木自身が言うように、これは「男と男の勝負」だった。
第1セットはタイブレークの末に鈴木。セットポイントから2本のミニブレークを許したが、最後は得意のチップ&チャージが冴えた。第2セットはワンブレークでボレリ。第3セットに入ると、両者がさらにギアを上げる。サーブはますます威力を増し、ブレークチャンスさえほとんどない。決着はタイブレークに持ち込まれた。
しんと静まったコート。鈴木のつぶやきが耳に入った。「冷静さと熱さ、両方!」と確かに聞こえた。鈴木貴男という選手は、こんな場面でも自分と対話できるのだ。タイブレーク5−5で、鈴木がまたも“伝家の宝刀”を抜く。チップ&チャージ。足元を突かれたボレリのパスはペースを失い、ネットに掛かった。6−5のマッチポイント。最後は鈴木のセカンドサーブが深く入り、ボレリのリターンは力無くネットに掛かった。
「いい仲間だからこそ、逃げずに勝負したいと思った」と鈴木。ミスターAIGオープンの威光は有明コロシアムを離れても輝いた。主催者推薦出場ながら堂々の3回戦進出。鈴木にとっては通算6度目、準々決勝に進んだ06年大会以来の3回戦の舞台となる。相手は前年覇者のフェレールだが「自分のスタイルを貫くだけ」と鈴木。ホームコートの有明で貴男の雄叫びがまた聞ける。
日本テニス協会広報委員会委員・フリーライター 秋山 英宏