2008年 9月30日
火曜日にもかかわらずスタンドを埋めた観客は5600人余り。NHK、民放全6局のテレビカメラがそろい、記者、カメラマンを合わせて約120人の取材陣が有明に詰めかけた凱旋試合。1年ぶりの日本でのプレーに、「試合前は負けることばかり考えていて、やりたくない気持ちもあった」と緊張していた錦織だったが、試合が始まると「楽しくプレーできた」と得意の「エア・ケイ」も披露して、大会初勝利に会心の笑顔を浮かべた。
球足の速い有明のコートではサーブが強力な武器になる。190センチの長身から時速200キロのサーブを打ち込んでくる元世界ランク77位のケンドリック相手に、簡単にサービスブレークができないことは分かっていた。ただ、錦織が弱点と自覚している自分のサーブも、要所でコーナーに決まった。なかなか相手サーブを破れなくても、自分のサービスゲームで重圧を感じることはなかった。「相手のサーブが良かったので、このコートではどうしようもない。チャンスはいずれやって来ると思っていた」
ともにブレークを許さず、タイブレークの末にセットを取り合って迎えたファイナルに、ようやくチャンスが訪れた。2−2の第5ゲーム。リターンエースに相手ミスも加わって30−40とすると、最後はセンターを襲った164キロのサーブをストレートに抜いて、待望のブレークをものにした。先行しながら第2セットを落として「気持ちがダウンしていた」という錦織だったが、これで勢いを取り戻した。第7ゲームも相手サーブを破って勝利を確実なものにすると、余裕が出た第8ゲームでは、相手の浮いた返球を直接「エア・ケイ」で打って決め、スタンドを大いに沸かせた。「(エア・ケイは)頭の片隅にはありました。あのポイントが一番盛り上がってくれた。試合はすごく楽しかった。暖かい声援を感じ、やりやすかった」。錦織はプロ転向後の日本初勝利に感激の面持ちだった。
2回戦の相手は第16シードのギリェルモ・ガルシアロペス(スペイン)。「サーブが特別速いとか、前に出てくる選手ではないので、このコートではやりやすい」と冷静に分析する錦織。日本男子として全米オープンで1937年以来となる4回戦進出を果たした18歳だけに、ファンが1回戦突破だけで満足してくれないことは分かっている。
谷祐一